第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
「フッ、一松よ、言葉はいらないって?」
「イタイ解釈すんな!」
クソ松は花火に負けないほど目をキラッキラさせ一松にウインクを飛ばしてから、手カメラで花火を己が瞳に写し、心のフィルムに焼き付けている。
クソ松は放置が一番。そう判断した一松はさりげなくクソ松の後ろからゆめ美の隣へ移動した。膝を抱えて夜空を仰ぐ。
「見て一松!ハート型」
「おおっ!」
紫とピンクのハートが夜空に煌めき、一松は思わず感嘆の声を漏らした。
「ふふっ、珍しいね一松が大っきい声出すの」
すぐ側で微笑むゆめ美は、一松の目には花火よりも眩しくて綺麗で。目が合えば心臓が肋骨を突き破る勢いで高鳴る。
「べ、べつにっ!珍しくなんか!」
「珍しくなんか?」
「…つーかさ、お…おれなんかより、花火見た方がいいと思いますよ。はい」
「急に敬語って、へんなの」
露骨に態度を変えて花火をガン見し始めた一松の真似をしてゆめ美も花火に視線を戻した。ゆめ美の視界で、数え切れぬ花火が儚い命を燃やし、闇夜に消えていく。
「でも、一松の言う通りだね。花火って一瞬で燃えつきちゃうからちゃんと見てあげないと」
「は?あ、ああ…」
ただの照れ隠しで放った一言が、どうやらゆめ美の心に響いたようだ。