第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
ゆめ美が家を出ると、松模様があしらわれた赤、緑、紫、黄の浴衣が色違いで並んでいた。
下駄を鳴らし駆け寄るゆめ美に、四人は瞬時に心を奪われる。
「迎えに来てくれてありがとう!」
ゆめ美は一番に浴衣を見せたかった人を探すけど…。
「あれ?トッティとカラ松くんは?」
「あぁ、カラ松は花火の場所取りしてるんだ。トド松は友達と約束してたみたいで来れないって。ごめんね、連絡してなくて」
申し訳なさそうに謝るチョロ松に、ゆめ美は精いっぱいの笑顔を向ける。
「そっか。約束なら仕方ないよね!気にしないで。勝手に全員来ると私が勘違いしてただけだから」
必死に自分に言い聞かせるように話すゆめ美。そんなゆめ美の肩をおそ松がポンと叩いた。
「ま、あいつの分まで俺が盛り上げちゃうから!」
「うん!私も盛り上げちゃう!」
「じゃあ早く行ってビール飲もーぜー!」
ニッカリ笑い、そのままゆめ美の腰に手を回すも、チョロ松がすかさずビンタで防いだ。
「はいはーい!」
「なぁに?」
長男と三男の攻防にゆめ美は気づくことなく、元気いっぱいに挙手をする十四松に視線を向ける。
「カキ氷食べたーい!」
「いいねーカキ氷!」
「うーん、僕の中で鉄板は焼きそばかな」
顎に手を当てながら、チョロ松。
「鉄板だけに?」
「やめろおそ松。僕が滑ったみたいだろ」
「じゃあ私はリンゴ飴!」
「はぁーーーん!!かわいーーー!!」
屋台メニューで盛り上がる四人の一歩後ろ、一松は一人のそのそと遅れて歩いている。
一松の半眼が映すのはゆめ美の後ろ姿。その可憐な浴衣姿に終始釘付けだ。
揺れるかんざし、華奢な背中、カランコロンと響く涼しげな下駄の音。ゆめ美を彩る全てに鼓動が高鳴る。
(好きなだけでいいんだ…おれなんか)
自分なんかはゆめ美に相応しくないと何度も胸中で呪文のように唱える。ゆめ美が求めているのはきっと自分ではなく"あいつ"。
(ホントバカ。あいつも…………ゆめ美も)
一松は、ゆめ美の声に寂しさが混じっているのを感じ取っていた。