第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
「よっ!モテ野モテ松!」
「あははっ、ばかやろ」
「いたいっ、お返しザンス」
さっきまでバトルを繰り広げていた野郎同士が肩をつついてじゃれ合い始めた。
(きもちわりぃ…)
チビ太は、身の毛のよだつ光景に戦慄を覚え、夏だというのにガタガタ震えている。
「で、誰ザンス?トト子ちゃんザンスか?」
「……」
口を閉ざすトド松に、イヤミは耳打ちする。
「もったいぶらず教えろザンス。ミーが恋のイロハを親切丁寧にアドバイスしてやるザンス」
「え?無理」
「シェ?」
トド松の顔から表情が消えた。感情の無い声が流れるように紡がれる。
「だって無理でしょ?フツーに考えて。イヤミに相談とかないわー」
「そ、それは強がりザンス。どうにかなってないから、チミは今一人で呑んだくれてるんザンス」
と、ここでイヤミは感づいた。
「分かったザンス!トト子ちゃんじゃないなら、消去法でゆめ美ちゃんザンスね?」
「…ち、ちがっ!」
「ミーにはお見通しザンス!!」
ビシッと指を突きつけながら、
「前にミーの店で性欲に任せイチャコラしてた時から怪しいと思ってたザンス!」
「いやそれボクじゃねーし」
空気が凍りついたのを感じ取ったチビ太は、ついに後ろを向いてダンボールを片付けだした。
「シェ?膝に乗せて口説き倒してたザンショ?」
「知らない」
トド松の目が据わり、表情に影を落とす。
口を滑らしたイヤミのおかげで、トド松のドス黒い感情がさらに膨張していく。不穏な空気を察し、イヤミは必死に取り繕う。
「な、ならば迅速にアタックするザンス!見栄や体裁を捨て、損得抜きで当たって砕けてみろザンス。兄弟に遅れを取るなザンス!」
強引にトド松の手を取り、イヤミは静かな声で続けた。
「いいザンスか?傷つくことを恐れず、バカになるのが本物の恋ザンス」
「…イヤミ…」
互いの瞳に自分を映し合う。
「わかってくれたザンスか?」
二人の間に奇妙な友情が芽生えた——
「…い」
「ん?」
「うるさい」
ような気がしたが、それはイヤミの勘違いだった。