第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
イヤミはグラスを少し乱暴にテーブルに置き、苛立ちを前面に出した声で反撃した。
「ならば!さも聞いて欲しそうな独り言呟くなザンス!ミーはチミが話題を振ってきたから応えたまでザンス!」
「酔ってつい本音が出ただけだし!そんなんいちいち意識してないし!」
イヤミはビールを一気飲みし、アルコールに任せて饒舌をふるう。
「ヒック…大体、ニートで恋愛なんて贅沢ザンス!」
トド松も負けじとグラスを空にして応戦する。
「余計なお世話」
「身の丈にあった人生を歩めザンス」
「歩いてるし。分相応だし」
「ならばなぜそんなに悩んでるザンス?」
うっ、と一瞬言葉に詰まったトド松だが、
「…べつに、ちょっと嫌なことがあっただけだし」
少し弱い声で返すと、イヤミは得意げに出っ歯を光らせた。
「よく聞けザンス。上手くいかないのが恋ザンス。浮かれ落とされを繰り返すエゴのシーソーゲーム!それが、恋!」
「どっかで聞いたことある感じやめて!?」
「惚れれば惚れるほど一喜一憂し平常心でいられなくなるもんザンス。それが本気で相手に惚れてる証拠ザンス」
「…っ」
心を見透かされたような発言に思わず声を失う。
(そうだ…ボクは——)
優しい言葉や気がきくアピールでゆめ美に惚れさせるつもりが、いつの間にかトド松の方が夢中になってしまっていた。ゆめ美といれば、ささいなことで嬉しくなり、ささいなことで辛くなる。余裕なんて全然ない。今、トド松の心の舵取りは完全にゆめ美である。
「いいザンスか?何があったか知らないザンスが、素直になるのが一番ザンス」
「うわぁ当たり障りのない事言うね」
「そんなに褒められると照れるザンス」
「よく褒め言葉に聞こえたね?どんな感性してんの?」
なんて返しつつ、イヤミのグラスにビールを注ぐ。
「ヒック、どーもザンス。さすが六つ子のかわいい担当!」
「まーね」
「気が利くのも六つ子イチ!」
「そう?」
「女子ウケも六つ子内暫定ナンバーワン!」
「またまたぁ!おだてても絶対奢らないよぉ?」
いろいろとツッコミどころ満載なおべっかだが、トド松はまんざらでもない様子。