第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
「なーんかいろいろうまくいかなくて」
「そうなのか?世渡り上手なおめーが?」
「うーん、そうでもない、かな」
珍しく思い詰めているトド松の横で、イヤミは慰めもせず嫌味をぶつける。
「ウッヒョヒョ、ついに親のすねを削り落としたザンスか?」
「もー、うるっさいなぁ」
「フン、いいかげんさっさと就活でもなんでもして、国民の三大義務をしっかりこなせザンス」
「イヤミに言われたくないし!あっ、返事きた」
会話の途中なのにスマホをいじるトド松を見やり、イヤミの出っ歯からため息が漏れる。
「ったく、人と話してる最中にスマホを見るなザンス。これだから今時の若者は」
「いーじゃんべつに。ボクイヤミと話しに来たんじゃなくておでん食べに来ただけだし」
あっかんべーをイヤミに決め込んでから、トド松はチビ太へ視線を移す。
「ねぇチビ太」
「あ?」
名を呼ばれ、おでんをよそう手が止まる。
「明後日の花火大会、チビ太も屋台出すの?」
「やらねーよ。その日は休みを取ったんだ。たまにはオイラものんびり息抜きしねーとな」
「そっか。寄ってあげようと思ったのに。じゃあカラオケにしよーっと」
言い終わらないうちに、指がテンポよく送信をタップした。
「おっ?もしやゆめ美ちゃんとデートかぁ?最近仲良いもんなぁ?」
「ヒミツ」
「水臭いぞバーロー!教えてくれたっていいじゃねーか」
「カンケーないでしょ、チビ太には」
「ケッ、そうかい」
不服そうに腕を組むチビ太だが、トド松は何食わぬ顔で空のグラスを振った。
「それよりビールついかー!」
「ミーもザンス!」
「あいよっ」
ビールと共におでんがテーブルに置かれると、二人は口をはふはふさせ、熱を逃しながらおでんを堪能する。
「はーっ、がんもおいひー」
「チビ太、また大根の腕を上げたザンスね!この絶妙な煮込み加減見事ザンス!」
「ケケッ、だから褒めても何も出ねーぞって………………ハンペン追加だ持ってけドロボー!」
「あざーす!」
静かな夏の夜。
虫の声と月の光を肴に、あつあつおでんとキンキンに冷えたビールを愉しむ。
なかなか乙な組み合わせだ。