第27章 トド松ルート1 blinded
ゆめ美が店に戻ると、店中コーヒーの香りで包まれていた。
「やぁ、おかえり」
「遅くなってごめん!洗い物今やるから」
パタパタと洗い場に向かうゆめ美を横目に、店主は二人分のカップに琥珀色の液体を注ぐ。
「いいよ。取り込み中だったから私が済ませておいたよ」
「え?とと、取り込み中ってなにが!?」
慌てふためくゆめ美を見て、愉しそうに口髭を撫でる店主。客席に座り自慢のブレンドの香りを鼻腔で味わうと、ゆったりと口を開いた。
「紫くんとピンクくんが来てただろう?てっきり話し込んでるのかと思ってね。なにをそんなに慌ててるんだい?」
「べ、べつにっ、慌ててないっ、けどっ!」
「まぁ落ち着きなさい。少し一緒に休もう」
コーヒーの香りがゆめ美を手招きする。
「はぁい…」
ゆめ美は差し出されたカップを受け取ると、思いつめた表情で店主の隣に腰かけた。
「ゆめ美ちゃんは分かりやすいねぇ。この短時間にどんなドラマを繰り広げたんだい?」
「ドラマなんかじゃないよ…」
唇からこぼれ落ちる、深い深ーいため息。
「ねぇ、伯父さんはさ、その…若い頃モテてたんだよね?」
「モテてたねぇ」
平然と言ってのける店主。嫌味に聞こえないのは事実だからだろう。
ゆめ美は身を乗り出し食いついた。
「じゃあじゃあ!女友達沢山いた?」
「そりゃあいたさ」
「なら……例えば…、友達と恋愛の境界線ってなんだった?」
「はははっ!そんなの私に聞かないで自分に聞いてみなよ」
いくら可愛い姪っ子といえども、そんな簡単に答えを教えるほど店主は甘くなかった。