第22章 拍手御礼小話 だいじょーぶ!!
「あっははー!かーっこウィーー!!」
悦な表情でカブト虫を掴む十四松の腕を、ゆめ美は一心不乱に引っ張った。
「帰ろう!捕まえたんなら早く!ねっ?」
「えー?」
振り返った十四松の帽子には、
「ぎぃやあぁぁぁあ!!」
得体の知れない巨大な蛾がくっついていた。
無論、ゆめ美は盛大にシャウトする。
「おぉー、ゆめ美ちゃんそんなおっきい声でんのー?」
「やだやだやだ来ないでーーーーッ!!」
巨大な蛾をくっつけた顔が近づくと、すかさずゆめ美は逃げ出した。脇目も振らずに林を走り抜け、道路脇まで避難する。その後ろを楽しそうにニッカリ口を開けた十四松が続き、ゆめ美の肩をポンと叩いた。
「っ!!」
「蛾はもういないよ?」
「あ……」
ゆめ美が安堵のため息を漏らすと、十四松は嬉しそうに笑った。
「よかったぁ、ちょっと元気になったね!」
無垢なる笑顔を向け、大事そうに両手で持った虫カゴをゆめ美に差し出す。
「ゆめ美ちゃん、だいじょーぶ!!カブト見て元気出して!」
「十四松くん…?もしかして、私が落ち込んでいたの気づいてたの?」
「なんとなく。ほら見てカブト!昆虫ピラミッドの頂点に君臨する鍛え抜かれたツノとボディ!栄えある夢あるロマンある!」
(十四松くん、理由も聞かずに私を慰めようとしてくれてるんだ…)
十四松の優しさに目を潤ませつつ、ゆめ美は虫カゴを受け取った。中を覗き込めば、つがいのカブト虫が仲良く体を寄せている。
「すごい!かっこいいね!」
「オスは十五松で、メスはゆめ美Jr.って名前ー!」
「嬉しい!私の名前にしてくれるの?」
「うん!」
優しい時間が二人の間に流れる。
熱い視線をぶつけ合うゆめ美と十四松。
「ありがとう。私、弱気になってちゃダメだね。Jrに負けないように明日からまた頑張らないと」
と、ゆめ美が虫カゴを十四松に返そうとした時——ブゥゥゥウン——という不吉な羽音と共に、先ほどの巨大な蛾がゆめ美の頭に止まった。
「キィヤァァァァアーーッ!!??」
「ジュニアーーーーッ!!」
カブト二匹が虫カゴごと宙に舞った。
十四松の場合 完