第22章 拍手御礼小話 だいじょーぶ!!
十四松の場合
「あーっ!ゆめ美ちゃんはっけーん!」
響き渡る声に驚きゆめ美が顔を上げると、遠くから砂塵を立てながら猛ダッシュで十四松が近づいてきた。
ゆめ美の目の前でキキキーッと足を伸ばし急ブレーキをかけ、嬉しそうに口を開く。
「一人でなにしてんのー?」
「ちょっとボーッとしてただけ。十四松くんは……虫取りかな?」
「そーだよ!カブト捕まえるんだ!」
十四松は麦わら帽子、虫カゴ、虫取りアミという三種の神器を装備していた。これでタンクトップに短パンならば絵に描いたような虫取り少年なのだが、長袖の黄色いツナギ姿だった。真夏に長袖なのは恐らくヤブ蚊対策だろう。
ゆめ美の目の前にいる虫取り少年は、突然アミで素振りを始めた。
「あの、十四松くん?」
「あいっ!あいっ!あいっ?」
「虫取りアミは蝶々とかトンボを捕まえるのに向いてて、カブト虫は手じゃないかな?」
その一言で素振りが止まる——が、またすぐに再開した。
「形から入ったんダヨーン!」
「うぐっ…」
「えぇっ!?ゆめ美ちゃーーん!?」
不意打ちのダヨーンで、ゆめ美の心のかさぶたが剥がされたのちにカラシを塗られるレベルで心を抉られた。苦しそうに胸元を押さえて項垂れるゆめ美。
「動悸ーー!?だいじょーーぶ!?」
十四松は慌てて虫取りアミを放り投げ、ゆめ美の肩を揺さぶる。