第20章 アンケート回 松怪奇譚〜落〜
苛立ちを全面に出して、女将は一松をギロリと睨む。
「なんだい?あたしはあまり気が長い方じゃないんだ。命乞いなら聞き飽きたよ」
牙を剥く女将に対し、一松は怯むことなく淡々と話した。
「なんでおれらが集まるまで食わないで待ってたの?」
「当たり前のこと聞くんじゃないよ!家族仲良く揃って食事!手を合わせていただきますだろ!」
女将は鬼のくせに変なところが人間臭かった。
「へーぇ、一家団欒ね…」
「話はそれだけかい?じゃあお前もとっとと入んな!」
今にも襲いかかってきそうなほど殺気立っている女将に向かい、一松はスッと控えめに挙手する。
「いや、待って。これはおれの意見だけど、一斉に食ったらさ、つまんなくない?」
「何を言って…!」
「…断末魔の悲鳴を七人分、一人ずつじっくり楽しみながら食べる方がよくない?」
ピタ、と女将が固まった。
微動だにしない女将の肩を叩き、トドメの一手。
「…恐怖に震える瞳が絶望に染まるのを、心ゆくまで堪能したくない?一人一人順番にさぁ…」
「あぶ、あぶぶぶぶ…」
女将は興奮のあまり、口から泡を吹き出した。
術中にはまった女将を見て、一松は口角を上げた。