第19章 ※アンケート回 松怪奇譚〜解〜
「あのね、一松くんだって、そんなことないよ?」
「……あぁ、そういうのいいから」
どうせ適当に慰めてるだけ——そう自分に言い聞かせ、一松はサングラスの奥で心を閉ざし瞳を閉じる。だが、ゆめ美は諦めない。
「嘘じゃない。一松くんは陰なんかじゃないよ?みんなとおんなじで、面白くて可愛くて、たまーーにカッコいいよ?」
「…たまに、なんだ…」
「あ、ごめん、たまにじゃなくて時々」
「それ、同じ意味でしょ」とツッコむと、ゆめ美ははにかむように笑った。
(ツッコミはおれの管轄外なのに…)
なんて思いつつ、気づけば一松はゆめ美との会話を心から楽しんでいた。
・・・
「ね、こうしてちゃんと話すの初めてだよね?」
「おれと話すネタなんて皆無だしね…」
「またそういうこと言う!いっぱい喋れて嬉しかったのに」
「だから、気ィ使ってんならそんなのいいから。嬉しいわけな」
「嬉しかったの!」
「ハイ」
勢いに押され、頷く一松。それを見てゆめ美はクスクスと笑った。
「さっきまでずっと怖かったからかな。こういう何気ない会話が出来るのってすごく幸せだなって思った。だから…」
数秒、時が止まったように口ごもると、
「早く、帰りたいな。また、いつもの日常に」
そう呟き、ゆめ美は顔を上げた。まるで、暗闇の向こうに希望を見出したように。
凛とした横顔を見て、一松は思った。
守ってあげたい。
兄弟じゃなく自分がゆめ美を。
でしゃばりでも調子のってても、そんなのどうだっていい。
サングラスを外す。
だって自分は一松で、カラ松じゃないんだから。
「帰れるでしょ……たぶん」
「うん…」
雲の合間から月が顔を出し闇夜を照らす。
その時気がついた。
月の光を浴びて、ゆめ美の頬がキラリと反射した。