第19章 ※アンケート回 松怪奇譚〜解〜
「『そんなこと言っちゃダメだよ』って言うのは簡単だけど、私も人のこと言えないな」
「いや大いに言えるでしょ」
一松の言葉に首を横に振る。
「ううん、ちょっと似てるかもって思っちゃった。私もトト子といるのが居心地いいから。トト子は可愛くて、明るくて、清々しいほど自分に正直で、羨ましいとこだらけなの」
今度はゆめ美が情けなさそうに笑う。
「だから私はね、みんなのアイドルであるトト子をバックステージから眺めている脇役でいいんだ。陰からコソコソっとね」
「…は?バックステージ?脇役?なに言っちゃってんの?」
一松はたまらなくなって毒づいた。
何故だか分からないが、苛立ちを隠せなかった。
それは、ゆめ美に自分を投影し——俗に言う同族嫌悪を抱いたからなのだが、それを自覚出来るほど一松は素直じゃなかった。
だけど頑張った。
お兄ちゃんの言いつけを守り、自分に嘘はつかなかった。
「そんなことないっ。脇役なんかじゃ…」
「え…」
「アンタだって、充分、いや、だいぶ…」
緊張で舌を噛みそうになるのを堪える。
「いいヤツだし、かか…わ…っ」
ギュッと拳を握り締める。
「か…わいい…………って、クソ松が言ってた。おれじゃなく、クソ松が…」
もう一度「おれじゃなく」と念を押す。
それは一松の小さな嘘。
自分ではなく、兄弟や他人にならば嘘ついたっていいという兄の言葉に甘えたのだった。
「一松くん…」
「だ、だからっ!おれじゃないって!カラ松が言ってたっつってんだろ!」
「あははっ、そっかそっか。カラ松くん、そんなに嬉しいこと言ってくれたんだ」
顔を赤らめゆめ美は俯く。
カラ松の名前を出したのは、一松の嘘だとすぐに気がついた。
どんなにバカでも鈍くても分かる。
それくらい一松の声は震えていた。