第19章 ※アンケート回 松怪奇譚〜解〜
胸元を必死に押さえているゆめ美から急いで目を逸らす一松。どうすることも出来ず、とりあえずカーテンを開き、外の明かりに目をやった。
曇って星は見えないが、旅館へと続く道に飾られた提灯は灯されたままだった。まるで命が尽きかけた星のようなオレンジの光を放っている。暗闇に目が慣れてしまえば、それすらも眩しく感じた。
一松は気怠げな半眼で、ぼんやりと遠くの提灯を眺め続けた。
もうやめて。
近づかないで。
僕から離れて。
期待するだろ。
嬉しくなるだろ。
益々好きになるだろ。
ぼくは誰にも見つからない陰。
兄弟の陰なんだ。
だから…もうほっといてよ。
——自分に嘘はつくなよ?——
こんな時に何故おそ松の言葉を思い出したのか。
(違う。これは嘘じゃない。逃げたいだけ…)
「あーあ、ご愁傷様。ここにいるのがおれじゃなきゃよかったのにね」
自嘲するようにヘラヘラと笑みを浮かべ、ゆめ美を見やった。
「急にどうしたの?」
「他の兄弟なら、アンタを怖がらせないし、心強いでしょ?おれじゃ役不足。おれはみんなの陰だから。誰も必要としないしされない、陰で一人コソコソ生息する、生きる気力のないクソ虫だから…」
「そんな風に思ってたの?自分のこと」
呆れたかな?引いたかな?そう思った一松だったが、意外にもゆめ美はどこか悲しげな表情で一松を見つめていた。