第19章 ※アンケート回 松怪奇譚〜解〜
「一松く…ん?」
「ぱっと見でよく分かったね…あぁ、分かるか。兄弟一、人ならざるゴミ臭がしてるから…」
「あの、今そこに動物いなかった?」
「……おれだけだけど」
猫になっていたとは、さすがに打ち明けられないようだ。
「そっか。じゃあ私の勘違いかな」
「下に降りる階段全部塞がれてたのに、どうやってここまで来たの?」
ゆめ美が梯子を見つけて窓から来た経緯を説明すると、一松は関心するように「へぇ」と呟くだけだった。
こんな時ですらいつも通りマイペースな一松を見て、ゆめ美の張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れた。
「一松くん…よかった…」
「…え?ちょ、待て!おい!?」
嬉しさのあまり、恥じらいを捨てゆめ美は一松の胸に飛び込んでいた。
「本当によかった…。ずっと、心配してたの。みんな離れ離れになっちゃって…チョロ松くんとトッティが、青い蜘蛛に…!」
そこまで言って顔を上げる。
「っ…そういえば、一緒にいたおそ松くんは!?カラ松くんと十四松くんは見つかった!?」
「……話すから、ちょっと、離れてくんない?」
くっつかれてると心臓が持ちそうにないんで——と、胸中で付け加える。
「っ!ご、ごめん!」
自分の大胆さに今更ながらに気づき、ゆめ美は慌てて身体を離した。一松は少しズレた浴衣を直し、警戒心剥き出しな冷たい声で言い放つ。
「つかさ、あんま馴れ馴れしくしないでくれる?」
勘違いするから——と、これまた胸中で付け加える。
一松の本音が見えていないゆめ美は、その言葉に胸がチクリと痛んだ。
「うん、気をつける…。ごめんなさい」
しゅんと肩を落とし、ゆめ美は壁にもたれかけぺたりと座った。
「……」
馴れ馴れしくするなと言った一松だったが、自ら肩が触れ合うほど距離を詰め、隣で膝を抱えた。
その姿は、まるでこちらから抱っこすると逃げる癖に、放っておくと隣で丸まって寝てる猫のよう。