第19章 ※アンケート回 松怪奇譚〜解〜
ゆめ美が祈るような気持ちで客室に着いた頃には、時刻は午前二時を過ぎていた。
青鬼に見つからぬよう、暗闇の中手探りで物置らしき部屋に梯子を見つけ、中庭の窓に梯子をかけて二階に忍び込んだのだ。
鍵を回すと既に開いていた。
もうこの中も青鬼が入り込みぐじゃぐじゃにしてしまっているかもしれない。
(でも、ここしかない。ここしか休める場所はない…)
緊張で汗ばんだ手。カラカラな喉。疲労で鈍る思考。
一人孤独に恐怖と戦っていたゆめ美の精神はもう限界だった。
ゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりとドアノブを回す。
そっとドアを開け、中に入る。スマホで部屋を照らすと、荒らされた形跡はなかった。
(よかった…!バッグはどこだっけ…)
確かペットボトルを入れっぱなしにしていたはず、と床にライトを照らし探していると、光を反射する双眸が目に入った。
「っ!?」
声にならない悲鳴をあげながらゆめ美は、スマホをその場にほうり出して壁際まで後退した。満面に汗をたらしながら、青ざめた表情で、ぜぇぜぇと肩で浅く呼吸する。
「い、いや…っ!」
怯えきった視線は、部屋の隅にいるそれへと集中していた。
青鬼の目にしては小さいし、人の目は光らない。それに、畳を這っているように目の位置が低かった。思いつくのは野犬か狸か猫といったところだ。
このままみんなに会えず、野犬に噛み殺される運命なんてゆめ美は望んでいない。
「お願い…何もしないから来ないでっ…お願い…っ!」
そこはかとなく声が震えている。言葉が通じるはず無いのに、部屋の隅から迫り来る獣へ、懇願しながら硬く目を瞑った。
「……」
——が、特に何も起こらない。
恐る恐る瞼を開け、スマホを拾い目の前を照らすと、
「キャアッ!?」
「……」
暗闇、オカルト、陰鬱という言葉がよく似合う四男が、淀んだオーラを漂わせ立っていた。