第3章 さぁこの出会い、本物の愛にまで育つかな?
六つ子の醜い争いなぞゆめ美は全く気づかず、少し足を弾ませながらキッチンの仕切り戸を開けた。
「伯父さんトースター食べるねー」
店主は夕方の仕込みで野菜を切っていた手を止める。
「ゆめ美ちゃん、今日は楽しそうだねぇ」
「そうかな?別にいつも通りだよ」
照れてる顔を隠すように、急いで食パンをトースターに入れる。
冷蔵庫からバターを取り出した拍子に手が滑り、落としかけたのをすかさず店主がキャッチした。
ぺこりと頭を下げるゆめ美を、店主は微笑みをたたえた顔で見つめる。
「伯父さん、なにそのニタニタしたうすら笑い」
「はははっ!ニコニコって言ってよ。ねぇゆめ美ちゃん。私には見分けつかないけれど、もしかしてあの中に気になる子でもいるのかい?」
「えぇっ!?そ、そんなんじゃないよ!まだ仲良くなったばかりだし…!」
(「まだ」ってことは、そのうち…ってね)
店主はバレないよう喉の奥でくくっと笑った。
こんな楽しそうにはしゃぐゆめ美を見たのは初めてだった。
「あっ、ごめん伯父さん!食洗機から食器出すの忘れてた!」
「そんなの後でいいから早く戻りなさい」
背中をポンと押すと、ゆめ美は戸惑いながらしぶしぶ客席へと戻って行き、すぐに賑やかな話し声に溶け込む明るい声色が聴こえてきた。
(あの子も年頃だし、恋の一つや二つあったっていいもんねぇ…)
姪っ子の成長をしみじみと感じ、あたたかい気持ちに包まれながら食洗機を開くと、
「キャーーッ!!」
「っ!?」
甲高い叫び声がビリビリと耳に入ってきた。
(やれやれ…楽しいのは大いに結構だけど、羽目を外しすぎじゃないかな?)
口髭を撫でながら声の元へと向かう。