第18章 アンケート回 松怪奇譚〜追〜
ゆめ美が厨房を見回すと、食品庫と書かれたドアの横に、明らかに一つだけ作りの違うドアを見つけた。頑丈そうな鉄の扉だ。
「ねぇチョロ松くん、あのドア気にならない?もしかしたら階段があるかも!」
「よし、行ってみよう!危ないから僕が先に…うわぁっ!?」
足元のバケツに引っかかり、チョロ松が転びかける。
「あぶないっ!」
ゆめ美は反射的に手を伸ばした。
「っ!!」
チョロ松は差し伸べられた手を掴み、慌てて体勢を立て直す。
「大丈夫?ここら辺汚れてるから気をつけないと」
「ごめん、助かったよ」
ゆめ美の手は冷たく、包み込めるほど小さくて…
(こんなか弱い手に僕は救われたのか…)
華奢な手をチョロ松はじっと見つめた。
「行こう、チョロ松くん」
「うん。あ、あのさ…!」
「なぁに?」
離れかけた手を、チョロ松は勇気を振り絞り強く握る。
(童貞だって、ニートだって、自意識ライジングだって、僕は…僕は男なんだ!!)
「ッコ…ッ!!」
「今度は僕が守ってあげるから」と言おうとしたら、喉がつっかえカエルが潰れたような声になってしまった。
「こ?」
キョトンとするゆめ美。
咳払いをし、仕切り直すチョロ松。
「…転ばないように…手、繋いだままでもいい?」
(うわぁぁああ!!僕のバカクズゴミィ!!ひとっつもカッコよくないぃぃいい!!)
緊張のせいで、予定よりだいぶ残念な台詞になってしまった。
こんな時に頼れる男アピールをせずにいつやるというのか。
だが、予想に反し、ゆめ美は照れながら唇を尖らせ、
「し、しょうがないなぁ…」
(急にデレぶっ込んできたーーーッ!!??)
チョロ松の心は浄化された。
青い鬼だとかシースルー女将だとか、何もかもがどうでもよくなっていった。
だって、世界はこんなにも幸福に満ちているのだから。
・・・