第18章 アンケート回 松怪奇譚〜追〜
一世一代の演技だったが、ゆめ美は食いつかなかった。
「トッティ、私も勿論おそ松くん達が無事だって信じてるよ。でも…ごめんね。さっきの音も気になるし、自分だけ何もしないでジッとなんかしてられないよ」
「お前が恐がりなのは、僕が一番よく知ってるよ。ちゃんと隠れてろよ?」
「え…?嘘でしょ?ホントに行っちゃうの?」
静かに頷き、チョロ松は弟の頭を撫でて瓦礫の陰から身体を出した。ゆめ美もそれに続く。
「そんな…待ってよ…!無茶だって!」
立ち上がろうとしても、足が震えて思うように動かない。
(ダメ…だ…)
恐怖心に心が埋め尽くされる。
二人の影がどんどん離れて行く。
(マジなんなんだよもう!無理だよ…ボクにはホラー展開とか不可能だって…!)
ひとりぼっちは嫌だ。
だけど、こんな恐ろしい旅館の中を歩き回るのはもっと嫌だ。
ぜったいのぜっったいに嫌。
心の声が重石となってトド松の背中にずしりとのしかかる。
(なんで…こんな目に…っ)
トド松は泣いた。
膝に顔を埋めポロポロと涙を流した。
好きな子を守れない臆病な自分が、情けなくて惨めでどうしようもなかった。
・・・
どれくらいそうしていたのだろう。
泣きに泣いて涙も枯れ果て、腫れぼったい目で瓦礫を眺めると、見覚えのあるバットが視界に映った。瓦礫をかき分け引っこ抜く。
(十四松兄さんの釘バットだ…)
一番非力な末っ子が一番心強い武器を手に入れてしまった。
(つかさ…なんでボクなの!?お化けだか妖怪だか得体の知れないなんかと戦えって言いたいのかよ神様仏様赤塚先生!!)
トド松はバットを握りしめ、どうすることも出来ず、その場にうずくまるのだった。
・・・