第17章 アンケート回 松怪奇譚〜鬼〜
(ちょっと待てなんでおれに話を振ったぁぁあ!?)
未だに意識し過ぎてゆめ美とうまく話せない一松。
だが、彼なりに頑張ってみた。
「……あ、あぁ…そ、そういえば、金目鯛って深海魚でしょ?光の届かない闇の世界。きっと海の底には、未だに発見されず何千年も生きている化け物がいて、いつか人類を滅ぼ」
「なんでお前までオカルトに持ってくの一松!?」
固まるゆめ美を見て、慌ててチョロ松が止めに入る。
頑張ったが、やはり一松は不器用くんだった…。
一松が口をつぐむと、兄達はいつものようにわちゃわちゃ騒ぎ始める。
「うわ俺の茶碗蒸しにつば撒き散らすなよ!はいこうかーん」
「ってやめろ!それ僕が取っておいたサザエ!」
「あれ?ねぇ…オレの刺身全部無くなってる。誰?」
賑やかな三人を白い目で見ていたトド松が、申し訳なさそうにゆめ美へ声をかけた。
「ゴメンね。兄さん達が騒いじゃって」
「ううん、いつものみんなに戻って思って安心してきた。怖かったけどもう平気!」
「うん!ボクも平気。ブログはただのネガキャンだったのかも」
「そうだよ!館長が自殺なんて——」
言いかけてハッとする。
(さっき、女将さん女湯で自殺があったって…)
「あ、あのさ…女湯の話」
ゆめ美が不吉な言葉を言いかけたタイミングで、トド松が箸をゆめ美の口元へ運んだ。
「へへっ、煮豆あげるっ」
ゆめ美のお口にコロンと煮豆を放り込む。
「っ……ありがとう!」
その話題には触れないでおこう、とでも言いたげなタイミングのあーんだった。
皆が山海のご馳走に舌鼓をうつ中、十四松だけは箸を置きブルブル震えていた。
「あ…あああ…あ」
十四松は見てしまった。
障子越しに見えた女将の影に、角が生えていたのを…。
・・・