第17章 アンケート回 松怪奇譚〜鬼〜
乾杯を合図に、待ちに待った夕食が始まった。
「かーーっ!うんまーーーい!!」
お造りの鮪を口にしてご満悦なおそ松を見て、ビール瓶を持ってきた女将が口元に手をやり、また奇怪な笑い声を上げる。
「ホラホラホラ…お口に合ったようで何よりです」
「つかさ、こんなにいい旅館なのになんで今日の客俺達だけなの?」
おそ松に尋ねられ、女将の眉がピクリと動く。
「…実は、今日ご予約の団体様がバスの転落事故に見舞われたそうで…。全員あちら側に逝ってしまわれて…」
空気が一瞬で凍りつく。
「へ、へぇ、そりゃあお気の毒で…」
「おそ松兄さん余計なこと聞かないでよ!」
「うん、なんか、ごめんな」
涙目の末っ子相手に、長男は素直に謝る。
女将は空き瓶を下げつつ、「そうそう」と思い出したように振り返った。
「お泊まりになられるのが皆様だけですので、今日は自慢の大浴場を混浴にしたんです。普段女湯として開放している方は、ちょっといわくつきでしてね…。過去に自殺し」
「いや聞いてませんよーー!!バス転落で僕らのメンタル大分やられてるんでもうやめてくれません!?」
チョロ松は箸を置き声を張り上げる。
もう彼の限界はとうに過ぎていた。
「ホラホラホラホラ!元気な方々ですこと。では…」
女将は気にする素振りもみせず、丁寧に襖を閉めて広間から出て行った。
「……」
和気藹々とした空気から一変し静寂が訪れる。ゆめ美は場を盛り上げようと隣の一松に話しかけた。
「い、一松くん!この金目鯛の煮付け美味しいねっ?」
「……え?お、おれ!?」