第17章 アンケート回 松怪奇譚〜鬼〜
一瞬間が空き、ゆめ美は恐々と口を開く。
「——鬼が巣くう廃旅館って呼ばれ、以来、廃旅館の周辺にはだぁれも近寄らなくなったって」
思わずカラ松は歩みを止めた。
「鬼…だと?その続きは?」
「それが、その先を読もうとしたら圏外になっちゃって…」
「そうか…」
カラ松は廊下に飾られている掛け軸に目をやった。
掛け軸に描かれているのは、一匹の青鬼が人を喰らうおぞましい絵だった。絵の中の青鬼は逃げまどう人々に容赦無く襲いかかり、一人の四肢を引きちぎり、滴り落ちる生き血を啜っている。
「カラ松くん…これ…」
「いい趣味とは言えないな」
もし、ゆめ美が読んだ記事が真実で、七人が宿泊しているのが潰れたはずの吐奇話旅館ならば、この状況は何だというのだろう。
(イヤミとチビ太は一体何を企んでるんだ?)
まるで異世界に放り込まれたような感覚を覚え、カラ松は頭を抱えた。
隣のゆめ美を見やると、掛け軸から視線を外し俯いている。きっと怯えているのだろう。
カラ松は自身の左手とゆめ美の右手の距離を縮めた。小指が僅かに白い指先に触れる。
そしてそのまま、何も言わずにゆめ美の手を握り締めた。
突然のことにゆめ美は目を見張る。
「あっあの…!」
「…い、いやか?」
「い、いやじゃない…けど」
二人してどもってしまい、見つめ合いながら笑顔になる。
「これで少しは怖くなくなるだろう?」
「うん…ありがとう」
「そろそろ夕飯だ。一旦部屋に戻り、また後でこの奥へ行こう」
「そうだね。待たせたら悪いし」