第17章 アンケート回 松怪奇譚〜鬼〜
カラ松が一人で行こうとしたのには理由があった。
(危険かもしれないから、オレだけがよかったんだがな…)
この旅館にずっと違和感を抱いていた。
(これまで、ダヨーンの口の中に入ったり、宇宙人と野球したり…。それなりの経験はしてきたが、身体が透けかけてる人間なんて初めて見た。それに、おそ松は気づいていないようだが客はオレ達だけだ。綺麗なのは客室のみで、ロビーや廊下は埃まみれ。ガラクタや虫の死骸だらけで手入れをされた形跡がない。そして、女将さん以外他の従業員を見かけないのも気味が悪い)
狐につままれただとか、狸に化かされただとか、そんな表現がぴったりな世にも奇妙な老舗旅館である。
薄暗い廊下に、ペタペタとスリッパの音を響かせながら、カラ松はゆめ美に問う。
「スマホは相変わらず圏外か?」
青白いブルーライトが一瞬ゆめ美の顔を照らし、すぐ消える。
「うん。ダメみたい」
「そうか…。なぁ、さっき車でトド松と読んでいたブログには何て書いてあったんだ?」
ピクリ、とゆめ美の肩が震える。
「えっとね、きっと違う旅館だろうから忘れようとしてたんだけど…」
「あぁ」
思い出させてしまったことを悪いと思いつつ、カラ松は続きを待つ。
「昭和五十五年にね、トキワ旅館の館長が自殺したんだって。自殺して間も無く旅館は潰れちゃったんだけど、その頃からこの辺りで行方不明者が続出して——」