第16章 アンケート回 松怪奇譚〜序〜
「んだよ別にフツーじゃん!つまんねー焦らしとかいらないから」
おそ松がガハハと笑い声を上げると、つられてみんなも笑い出す。
「トキワ旅館ー?藤子Z不二雄いるかなぁ」
「いるわけないでしょ十四松兄さんっ」
優しいツッコミを兄にいれつつ、トド松はスマホで旅館名を検索した。気になったことはすぐ検索。THE・現代人である。
(アタミ、トキワ旅館っと。あったあった)
ずらっと並んだ検索結果に目を通す——と、奇妙なことに気がついた。
(この旅館、ホームページが無い?ええと、このブログを読んでみようかな)
トド松が画面をタップしたタイミングでゆめ美が声をかける。
「トッティ、山道でスマホ見てて酔わないの?」
「大丈夫。今ね、トキワ旅館を調べてたんだ。一緒に見る?」
そう言って画面をゆめ美に見えるよう角度を変える。ブログ記事を二人で読み進めると、ある部分が目にとまった。
「——絶景の露天風呂はアタミの大自然を一望出来、筆者が自身を持ってお勧めする温泉である。しかし、この旅館は昭和五十五年、突然——」
「…トッティ…これ…」
不意に二人の背筋が寒くなる。
「は、ははっ!同じ名前の旅館なんて沢山あるよ!えっと、次のページ…」
と、続きを開こうとするも突然圏外になってしまった。
ブラウザバックしても画面に何も表示されない。
トド松は恐る恐るイヤミに尋ねた。
「ねぇイヤミ、この辺にトキワ旅館っていくつもあんの?系列が同じとかさ」
「は?なに言ってるザンス?系列なんて無いザンス」
「だってだって、トキワ旅館って昭和五十五年に閉館したって——」
その一言で、賑やかだった車内がシンと静まり返った。
「おいイヤミ。まさか俺らを廃旅館に置き去りにする気ぃ?ツアー代ふんだくっておいてさぁ?」
おそ松が乗り出して助手席を覗き込むと、イヤミは怒声を上げる。
「失礼千万!!寝ぼけたこと言うなザンス!ちゃんとミーは電話で予約したザンス!ほら、もう着いたザンス!よく見ろザンス!!」
ぼんやりと光る提灯の明かりが続く中、奥にそびえ立つ旅館の看板には確かに書かれていた。
吐奇話旅館、と。