第16章 アンケート回 松怪奇譚〜序〜
ひとしきり観光を終えた七人は、うねうねとした山道をひたすら車で進んでいた。霧が立ち込め、夕方だというのに既に薄暗く、木々が不気味にざわめいている。
フォグランプが霧の向こう、ぼうっと道を照らす中、イヤミのダミ声が車内に響いた。
「六つ子と紅一点のみなさぁーん!いよいよ旅館に到着ザンス!創業百年以上の老舗旅館ザンスよ!」
「創業百年以上」というキーワードに車内はどよめく。
「マジでー!そーゆーの早く教えてよイヤミくん!俺更にテンション上がったー!」
「フッ、老舗旅館…か。ロマンが溢れているな。きっと、長い歴史の間に様々なドラマが繰り広げられたのだろう」
「なんて名前の旅館なの?」
チョロ松の質問は至極普通。気になって当然である。それなのに、イヤミは急にだんまりを決め込む。
「……」
「え?イヤミ?」
「そ、それは…着くまでのお楽しみザンス」
ひた隠しにするイヤミに、ほとんど会話に入らなかった一松が珍しく口を開いた。
「……言えない理由でもあんの?」
「そんなことないザンス。サスペンスですぐ犯人を教えたらつまらないザンショ?それと似たような興奮をチミ達に届けたいだけザンス」
ジットリとした目で睨む一松に対し、冷や汗をかきながらはぐらかすイヤミ。
怪しいと踏んだ一松は、イヤミを詰問する。
「あのさぁ、こっちは金払ってんだから、知りたい時に知る権利あるよね?そんなにまた虎と戯れたいの…?」
「シェーーッ!?」
イヤミの脳裏に、寅地獄〜鍵責め〜がフラッシュバックする。
(嫌ザンス!もう虎と同じ檻に入れられるのなんてまっぴらごめんザンス!)
「……と……」
「と?」
「トキワ旅館…ザンス」