第16章 アンケート回 松怪奇譚〜序〜
「えー六つ子のみなさんと準ヒロインさぁーん、右手に見えますのはかの有名な赤塚神社ザンス〜。予定に入ってないのでただ通り過ぎるだけザンス〜」
ワゴン車に揺られながら、六つ子とゆめ美は赤塚神社の鳥居を眺めた。
「見てー!鳥居でっけーー!!上れるかなー!」
「十四松、暴れるな」
窓際の席で手足をバタつかせる十四松の隣で、チョロ松が暴れ回る手足の被害をこうむっている。
そんな二人のじゃれあいに、ゆめ美は堪えきれずクスクスと笑みをこぼした。
今、六つ子とゆめ美は初旅行を満喫中。
ツアーコンダクターはイヤミ。運転手はちび太。
先日、居酒屋で呑んだくれていた六人の元へ、イヤミとチビ太が「旅行会社っぽいこと始めました」宣言し、格安料金プランを提示したのがきっかけである。
提示されたキャッチコピーはこんな感じだ。
『一泊二日・温泉旅館付アタミバス旅行、お一人様一万円。楽しい美味しい気持ちいい、素敵な思い出を貴方に!』
宿泊費込みで一万円は破格のお値段である。
だがイヤミとチビ太のことだ。どうせまた悪どい商売でも始めたのだろうと勘ぐった六つ子だったが、ゆめ美が行きたいとノリノリになっていると言われ、二つ返事でOKを出してしまったのだった。
「楽しいね十四松くん」
「楽しいねゆめ美ちゃん!」
ゆめ美が振り返って十四松と笑顔を交わしていると、その横でつまらなそうにほっぺを膨らませる松がいた。
(もうっ、ボクが隣にいるのにさっ)
と拗ねつつも、ゆめ美を見れば顔がニヤける。
(でも、約束通りボクが選んだワンピ着てくれてるっ!)
なけなしのへそくりで買ってあげたワンピースが、愛しのゆめ美の身体をコーティングしている。
ボクの見立てに間違いなし——とトド松は胸中で自画自賛する。それは決しておごりではなく、淡いピンクのワンピースは、色白なゆめ美によく似合っていた。
トド松はスマホで景色を撮るふりをしながら、さりげなくゆめ美の横顔を写真に収めた。
(うんうん!やっぱクッソ可愛い!似合いすぎ!)