第15章 番外編 perfect birthday〜F6〜
日がすっかり傾き、夜の闇が空を覆い始めた夕刻——ゆめ美は、カラ松のバイクに乗せてもらい、山道をドライブしていた。
「あぶねーから手ェ離すんじゃねーぞ!」
「うんっ」
下り坂に差し掛かり、ゆめ美はカラ松の背中にしがみつく。エンジン音に包まれながらカラ松の体温をすぐそばで感じ、うっとりと瞳を閉じる。
(幸せ…。このままずっと、どこまでも行きたい。日常なんか忘れてしまいたい…)
夢心地になりながら、逞しい背中に身体を預けていると…
「オォーーーーーッ!!」
突然、背後から地鳴りのような声が聴こえてきた。
「なっなに!?」
「……来たな」
カラ松はミラー越しに人影を確認した。ゆめ美にはさっぱり分からず、チラリと後ろを見やる。
「来たって何が?って、キャアァァァア!!??」
「チャオッ!子猫ちゃん!」
いつのまにか、超スピードでロードバイクを漕ぐ十四松がバイクに並走していた。黄色いウェアーにヘルメット姿の彼は、ゆうに時速百キロは越えているというのに、余裕げな笑みを二人へ向ける。
「カラ松にーさんっ!!ゆめ美を独り占めなんてずるいんじゃないっ?」
「るせーっ!こいつはオレのだ!」
「ダメだよ!ぼくまだデートしてないもーーんっ!」
そう言うと、十四松はゆめ美の腕を掴んだ。
「十四松くんっ、何をっ!?」
怖がるゆめ美へ、甘いマスクのスイートプリンスはウインクを飛ばす。
「ぼくを信じて?えーーいっ!」
十四松はカラ松からゆめ美を引き離すと、空へ向かい勢いよくジャンプした。
「う、嘘っ!?キャアァァァアーーーッ!!」
手を繋いだ状態のゆめ美も天高く空へと昇っていく。
「カラ松兄さん!お姫様はいただいていくよー!!」
カラ松は急ブレーキをかけ、空へ飛び立った二人を見上げた。
「チッ、無茶しやがって!」
西の空には、宵の明星がキラリと光っていた。
・・・