第15章 番外編 perfect birthday〜F6〜
けれど素直になれず、ゆめ美はツンツンとした態度を取ってしまう。
「き、急に抱きしめられたら、誰だって間抜けな声が出ちゃうよ!」
「そうか。じゃあその間抜けな声が聴きたくなったらいつでもこうしてやる」
「もうっ、一松くん!」
一松は、照れ隠しで怒ったフリをするゆめ美を見やり、美しい手でゆめ美の頬を包み込んだ。
「ゆめ美、まだ分からないのか?」
「え?」
バイオレットの瞳が、ゆめ美を愛おしむように覗き込む。
「……お前が隣にいるだけで、その笑顔を見せてくれるだけで、おれの心は満たされる。おれにとって、ゆめ美が側にいることが一番のプレゼントだ」
「一松くん…」
普段、言葉少なで心の内を誰にも明かさない一松だが、今の彼は真っ直ぐな思いをゆめ美にぶつけていた。
ゆめ美はそれがたまらなく嬉しくて、向けられた瞳をじっと見つめ返す。
すると、一松は冗談ぽく口の端を上げた。
「でも、そうだな。せっかく何かをくれようとしてるなら、受け取ってやる義務があるな」
その一言で、ゆめ美は一松が何を求めているのかすぐに分かった。
「じゃあ、沢山受け取って」
ゆめ美は恥ずかしさを押し隠し、自ら一松の首に腕を絡ませた。甘えた声で身体を寄せるゆめ美に対し、一松も応えるように抱き寄せる。
「……バカ……」
そう言いながらも、みるみる赤らむ一松の頬。
ゆめ美にとっても、珍しく照れている一松の可愛い表情が一番のプレゼントだった。
「一松くん、可愛い…」
「う、うるさいっ!すぐにそんなこと言えなくなるようにしてやる」
「あっ、そこはダメ!くすぐったい!」
「可愛いと言ったオシオキだ」
今だけは鼻血で気を失うわけにはいかない——ゆめ美は、鼻腔の毛細血管に祈りながら、一松と秘めやかな時間を愉しむのだった。
・・・