第15章 番外編 perfect birthday〜F6〜
チョロ松の船室は、兎にも角にも豪華絢爛だった。美術の教科書で見たことがあるような絵画や壺が飾られており、ゆめ美は思わず感嘆の声を漏らす。
「わぁーすごく綺麗!チョロ松くん、これってレプリカ?」
「いえ、本物ですよ。貴女と過ごす部屋に偽物など、この私が置くはずがありませんから」
思いつめた表情で一呼吸おき、チョロ松は続ける。
「だって…貴女に対しては、いつも本物の、嘘偽りない自分を見せ……って、べべ、べつに!深い意味などない…ですから!!!!」
真剣な眼差しを向けたかと思ったら、今度は耳まで赤らめ目を逸らす。そのコロコロ変わる表情がなんだか可愛くて、ゆめ美はこの愛おしい人をいつまでも見ていたい、そう思った。
慌てふためいていたチョロ松だが、ゆめ美の視線に気づくと、かぶりを振ってふうと一息。
「やれやれ。取り乱してしまいすみません。恥ずかしいところを見せてしまいましたね」
「そんなこと…」
と、ゆめ美が話しかけたタイミングで、ドアがノックされる。
「どうぞ」
チョロ松の声を確認し、乗務員がワゴンを引いて部屋に入ってきた。
「チョロ松様、ホットワインです」
「あぁ、ありがとう」
乗務員は、テーブルにクラッカーの盛り合わせと耐熱のワイングラスを二個置いて出て行った。
「暖かい時期でも、女性は身体を冷やしやすいと文献にありました。だから、こういうのもたまにはいいかと…」
「いい香り…ありがとう」
チョロ松が引いてくれた椅子に腰掛けると、そのままグラスを受け取り、乾杯する。
ゆめ美がグラスを覗き込めば、白ワインに浮かべられたオレンジピールの爽やかな香りと、ワインの芳醇な香りが鼻腔を突き抜けた。
少しだけ口に含んでみると、フルーティな甘みが口いっぱいに広がり、喉の奥がじんわり温まるのを感じた。
「美味しい…」
「気に入ってくれてよかった」
嬉しそうに微笑むチョロ松の笑顔を見て、ゆめ美は自分の一番の目的を思い出した。
「チョロ松くん、はい」
一冊の本を差し出す。
「ゆめ美さん、これは?」
「誕生日プレゼント。読書が好きって聞いたから…」
本を手に取り、チョロ松はハッと息を呑んだ。