第15章 番外編 perfect birthday〜F6〜
おそ松はシャツにケチャップを付けたチンピラへ向き直ると、汚れた胸元を指でなぞった。
あまりにも優しく、艶めきだった指使いに、チンピラは思わず声を漏らす。
「子猫ちゃん…素直になるんだ。このケチャップは、さっきキミがヘクソナルドで食べていたハンバーガーのものだね?道路渋滞に巻き込まれている時、人間観察をしていて、偶然ケチャップがついたチンピラを見かけたから脳にインプットしておいたんだ。世の中には、チャーミングなチンピラもいるんだってね」
「お…俺が…チャーミング…?」
おそ松はチンピラの顎をクイッと持ち、その端整な顔立ちをまつげが触れ合いそうになるほど近づけ、視線をぶつけた。
「仮にもし、キミの言い分が真実だとして、僕のプリンセスがぶつかり、キミをケチャップまみれにしたあげく、転ばせて顔を潰れたブ◯ゴリラに変形させてしまったのなら、心から謝るよ」
「ブ◯ゴリラは…生まれつきなんですけど」
チンピラの心はもうおそ松のもの。ブ◯ゴリラと呼ばれても瞳はハートマークのままだ。
「…さぁ、これで」
おそ松は、真っ白なハンカチをポケットから取り出し、チンピラの汚れたシャツを拭いてやった。そしてそのハンカチをチンピラに手渡す。
チンピラは、震える手でハンカチを広げ、恍惚の表情を浮かべた。
「こ、これはっ…!この薔薇とかなんかそれっぽい、ありとあらゆる花々を集めたような香りは…っ!!??」
「あ、ごめんねっ。彼女を待たせてはいけないと、三百メートル続く大豪邸の廊下を走った時、首筋から脇の下にかけて噴出した、僕のエクリン腺とアポクリン腺をそのハンカチで拭ったんだった。汚かった…かな?」
白い歯を見せ、トドメの爽やかスマイルでチンピラのハートを完全に射抜くおそ松。
極上スマイルを向けられたチンピラは…
「あぁぁありがとうございまぁぁああす!!!!」
と、純白だったハンカチを鼻血で真っ赤に染め上げながら卒倒し、帰らぬ人となった。
「あ、兄貴!?兄貴だけズルいっ!!くそっ!!お、覚えてろぉっ!!」
おきまりの捨て台詞を吐きながら、チンピラの子分は走って逃げて行った。