第14章 トッティメモリアル
「ハァ……」
デートから帰ってきたトド松は、珍しくベランダで一人夜風にあたっていた。
一松をしつこく問いただしたものの、人を殺る目つきで睨まれ、確証を得られないまま尋問は強制終了。
下手に兄達に話せば、ゆめ美とデートしたのがバレてしまい、いつものように理不尽な猛攻に遭うのは目に見えている。つまり、もう打つ手がない。
結局、ジェイソンの正体は闇の中。
だが、ため息の主な原因はジェイソンではなかった。
(せっかく買ったのに、渡せなかった…)
トド松は手に持ったネックレスを月にかざしてみた。
上弦の月に照らされ、ペンダントトップの小花が星のようにキラリと光る。控えめな感じがゆめ美みたいで可愛いなと思い、ナイショで買ったはいいものの、あの出来事がキッカケで渡せずじまいだった。
(あの時、まさか泣くなんて…)
衝動的に奪ってしまったものの、あれは紛れもなくファーストキスだった。
不覚にも暴走してしまったトド松だったが、それは、ずっとずっと思い続けていたから。
決して、生半可な気持ちではない。
(ねぇ、どうしてあの時泣いたの?…ボクじゃダメなの?)
ボクならちゃんとバイトするよ?毎日マメに連絡するよ?会話のキャッチボールもちゃんと出来るし、兄さん達の誰よりも常識があるよ?と、ネックレスに向かって語りかけたところで返事などない。
虚しさだけが残る。
本来ならば、ファーストキスをしたのだから幸せいっぱいなはずなのに、トド松の心は曇り模様。
キスしていないと告げ、誤魔化した時の安堵の表情を思い返せば、きゅうっと心が締め付けられた。
「じゃあ、誰ならいいんだよ」
月に小さく吠えてみる——と、
「誰ならいいって何が?」
「っ!!……チョロ松兄さん」
缶ビールを持ったチョロ松がベランダにやってきた。