第14章 トッティメモリアル
掠め取るように唇を奪われた瞬間、ゆめ美はトド松の肩を腕で押し離し、ベッドから抜け出そうとした。だが、繋がれた手錠がそれを阻む。
トド松はクスリと微笑み、腕を引いて身体を密着させた。
「もっとこっちきてよ…」
「トッティ…やめ…て…」
涙がひとりでに溢れ出す。
嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか…ゆめ美は涙の理由を見いだせず、ただただ頬を濡らす。
「どうしたの?ボクが怖い?」
顔を背けようとしたが、顎を掴まれ視線が絡まる。
「もしかして、ボクより怖がりさん?」
「なんで…や…だっ!」
再び瞳が近づき、思わずギュッと目をつぶると…
(っ!?)
ふに、と唇に何かが触れた。
「シーッ、そんなに騒いだら、またあいつ来ちゃうよ?」
まぶたを開くと、トド松の人差し指が唇に押し当てられている。
「トッティ…さっき、私に…!」
「さっき?なに?」
「な、なにって…!」
(っ…キスを…)
言いかけて押し黙ると、悪戯っぽく笑いながらトド松は言った。
「へへっ、もしかしてキスしたと思った?ボク、さっきもこうしただけだよ?」
「え…?」
きゃぴっと笑い、唇に触れていた指で、ゆめ美の目尻に溜まった涙を拭う。
「誤魔化さないで!さっき、確かに…!」
「ううん、ボク、しずかにって指をつけただけよ?真っ暗だったから勘違いしちゃっても仕方ないけどさっ」
「そ、そんなはずない!だって…!」
(あの感触は、きっと、指じゃない…)
ぶんぶん首を振るゆめ美の腕を掴み、トド松はドアを見やった。
「落ち着いて。あいつ戻ってこないみたいだし、そんなにユメがキスしたいなら、今してあげてもいいけど?」
「し、しません!ねぇ、嘘つかないで!さっきキスしたでしょ!」
「んー、どうかな?ま、それはまた今度。とりあえず早くここから逃げよう」
ケロッとした顔ではぐらかすトド松に、ゆめ美はそれ以上何も言えなくなってしまい、口をつぐんで頷いた。
(なんだろう…この感じ…)
ガッカリしたような、ホッとしたような。
今のゆめ美には、自分の中に湧き起こる気持ちに名前をつけることは出来なかった。