第13章 十四松の誓い
屋根の上、手をつき脚を伸ばす十四松の隣に、ゆめ美は恐る恐る腰掛けた。
「あっははー、楽しいねー!」
「うん、怖いけど楽しい!」
燃えるような夕日はビルの陰に半分隠れ、夕日の赤と夜闇の藍色が空に繊細なグラデーションを描いている。
「綺麗だね」
「ぼくね、ここでボーーーーッとするの大好きなんだ」
「へぇ…なんとなく分かる気がする」
ゆめ美は地上を覗き込んだ。
慌ただしく走る車のエンジン音、遠くで聞こえるはしゃぐ子供達の声、めまぐるしく行き交う人々…。地上にいれば自身もその一部なのに、屋根の上からだと様々な物事を俯瞰出来た。
「ここにいるとね、いろんなものが見えるんだよ。ほら、あそこの家。あそこは古い八百屋さんだった。あっちのビルはね、昔空き地だったから、よくみんなで鬼ごっこしてた。あっ!あの人は毎日うちの隣のカフェでお茶してて、あの親子は——」
「すごいね。この街のこと何でも知ってるね?」
「ううん、全然知らないよ。知ってることだけだよ。ぼくは、あの夕日に比べたらちっちゃな存在だし、知らないことだらけだよ」
そこまで言うと、十四松の表情に翳りが出来る。
「だって…いっつも一緒の一松兄さんの気持ち、分かってあげてなかったから」
「それって、エスパーニャンコの…」
言いかけて口をつぐむ。
こんなに寂しそうな十四松の笑顔を、ゆめ美は見たことがなかった。
(何か——言ってあげないと)
ゆめ美は、漠然としたイメージから必死に言葉を紡いだ。それは、十四松に向けた言葉だが、無意識で自分に向けたものでもあった。