第12章 恋とニャンコと真心と
路地裏の積み上げられた箱の上で息を潜め、缶をぶつけられてあざになった背中をペロペロ舐める。
どうしよう。
ぼく、一松に嫌われちゃった。
もう仲直り出来ないかも。
耳を垂れて一匹塞ぎ込んでいると、
「おーい、おいでー」
「!!」
ぼくを呼ぶ人間の声。
(逃げ切れたと思ったのに…)
もうダメだ。
きっとぼくは磔にされてカラスの餌にされるんだ。
そう思った。
けど、違った。
「おいでーメガネくん」
(ゆめ美ちゃん!!)
ぼくを呼んでいたのはゆめ美ちゃんだった。
今すぐ飛び降りて頬ずりしたい衝動に駆られたけど、今のぼくはエスパーニャンコ。
ゆめ美ちゃんにまで嫌われたら、ぼくのメンタル修復不可能。
だからぼくはジッと隠れた——つもりだった。
「はい捕まえた」
「ニャー…」
「見かけたから追いかけたんだけど、あれ?こんな泥んこだったっけ?どこで遊んできたのかな?それとも、イタズラ沢山しちゃったから、あんな大勢に追われてたの?」
不覚にもだっこされちゃった。
「ってスゴイ臭い!!洗ってあげたいけど…」
ゆめ美ちゃんが言い終わる前に、口が勝手に動く。
『洗ってあげたいけど、猫って水キライだよね』
「う、うわぁぁあ!!」
ぼくの声に驚いたゆめ美ちゃんが、腕をぶんぶんさせてぼくを落っことした。
げし、と地面に着地。
「メガネくん…人語を話せるの!?」
『もしや妖怪とかじゃないよね?』
「ままままた喋ったぁ!?」
ゆめ美ちゃんの本音はちっとも裏表がなかった。