第12章 恋とニャンコと真心と
・・・
気持ち薬を注射されたぼくは、一松達に連れられて松野家に行った。
ぼくは、薬の効果でみんなの心の声が分かるようになって、副作用で人間の言葉が話せるエスパーニャンコになっていた。
話せるようになって喜んでくれたかと思ったけど、一松はずっと部屋の隅っこで一人ぽつんと膝を抱えている。
「ねぇ、なんか話せば?」
「ニャー」
見兼ねた十四松が、ぼくを一松の膝へ乗せた。
だけど、一松はぷいっとそっぽを向く。
「相変わらず冷めてんなぁ。あの猫だけが友達な気がしてたけど」
「いやいやっ、一松兄さんに友情とかないからっ」
おそ松とトド松が茶化すようにそう言うと、一松は皮肉っぽく笑って、冷たくてさびしくて悲しいことを口にした。
「友達?仲間?おれには一生いらない」
…だけどね、今のぼくにはぜんぶお見通し。
『ほんとはんなこと思ってないけど』
だからぼくは、一松が隠していた本当の気持ちを、兄弟みんなにバラしてしまった。
一松が攻撃的な言葉を発するたびに、あべこべな言葉が声となって、ぼくの口から勝手にぽんぽん飛び出す。
ともだちいなくてさびしいって。
一人でいるのは怖いからだって。
自信がないんだって。
猫といるのは言葉通じなくて傷つかないからだって。
……兄弟がいるからともだちいらないって。
チョロ松はクソ童貞だって。あ、これは一松じゃなかった。
本当のことを言ったら、一松はとっても怒った。
とってもとっても悲しい瞳で、ぼくを睨んだ。
「鬱陶しいんだよっ!!どっか行けっ!!」
一松がぼくに向けた言葉。
『うっとうしいんだよ。どっかいけ』
ぼくの口からも同じ台詞。
つまり、紛れもなく一松の本音だった。
(ぼく、余計なことしちゃった。一松のこと傷つけちゃった)
心が痛い、苦しい。
猫だって、悲しいって感情はあるみたい。
(ごめんね、一松…)
ぼくは、一松から逃げるようにお家を飛び出した。