第11章 恋煩いライジング
そして三分後…
「お、おかえりチョロ松くん」
「……」
今度のチョロ松は、着崩れしたスーツに髪がボサボサでマスクをかけていた。そして無口だ。
「あの、さっきからみんなに連れてかれてるけど…もしかして…」
「……」
チョロ松(?)は何も答えずコーヒーを飲んだ。
ゆめ美も真似して紅茶を飲みながら探るように見つめると、一瞬だけ目が合いすぐに逸らされる。
(これは、やっぱり…)
「なんか、チョロ松七変化って感じだね?いや、正確には六変化?」
「チョロリンッ!?」
「チョロリンって何!?」
目の前のチョロ松(仮)は、珍妙な鳴き声と共に気だるげに開かれていた半目をくわっと見開いた。まるで、「なんで分かった!?」とでも言いたげに。
というか、もう九十九%六つ子が入れ替わっているのを気づいていたのだが、その反応でゆめ美の中の疑問が確信に変わる。
そしてここでトドメの一手。
「一松にーさーん!次はぼくだよ!!」
無垢なる笑顔で十四松がフツーに一松の名を呼び、そして肩を叩いた。
「……まだ、五文字しか喋ってないんだけど」
「時間厳守でオナシャス!!」
「…はーい」
呆気にとられるゆめ美の眼前から、二人は雑談しながらいなくなった。そして数十秒後、十四松がすぐにゆめ美の元へ戻ってきた。スーツすら着ず、黄色いつなぎのままだ。
「こんにちはー!」
「こ、こんにちは。あの、そのままでいいの?」
「なにがー?」
「流れ的に…いや、なんでもないよ。ミルクレープ味見する?」
「いいすか!?やったぁーー!!」
こうして、二十分ほど十四松とティータイムを楽しんだ後、店を出ると、入り口でヨレヨレなスーツジャケットを引っ張り合い、チョロ松とトド松が格闘していた。