第11章 恋煩いライジング
目の前の阿呆に、ゆめ美は訝しげな視線を注ぐ。
「あの…大丈夫?口元大変なことになってるけど、そんなに気に入ったの?」
ゆめ美は身を乗り出し、紙ナフキンであやうくワイシャツに垂れかけたヨダレを拭ってやった。
ハッと我に返るチェリー松。
「わわわ…ごめんっ!僕今変なこと口走ったりしてなかった!?」
「いや、特には。でも、心ここに在らずな感じだったかな」
「そっか…ハハ、ハ…」
(ヤバい。妙なこと考えてないでちゃんと会話を盛り上げないと!)
誤魔化すように口元に笑みを浮かべながら、チョロ松はアイスコーヒーを口に含んだ。苦味と程よい酸味で思考をクリアーにし、何か盛り上がる話題はないものかと考える。
(うーん、よくよく考えたら、ゆめ美ちゃんのこと、知ってるようで何も知らないな。この間は趣味について聞いたけど——)
そこでふと脳裏に浮かんだのは、風邪の時カラ松が看病していたというエピソード。
あの日——寝る前みんなで問いただしたら、カラ松は偶然会っただけだと弁明していたが、死ぬほど羨ましかった五人はとりあえずカラ松の意識がなくなるまでプロレス技をかけまくった。