第11章 恋煩いライジング
「ほんとだ、生地のほろ苦さとカスタードが合ってて美味しい!」
「そ、そうでしょ!いやぁ、これはリピーターになっちゃうかも!」
そう言って、得意げに笑いながらも脳内では早くゆめ美のフォークが触れたミルフィーユを舐め回したくてたまらない新品三号。だが、これだけでは終わらなかった。
「じゃあ、私のミルクレープもあげる」
「もぐっ!?」
不意打ちともいえるフォークさばきで、ゆめ美はチョロ松のお口に自分のミルクレープを運んだ。
「美味しいでしょ?」
「む、むんっ!!」
(ついに念願の間接キスーーーッ!!??)
チョロ松は返事をしつつ——そう。僕が口の端を上げて笑顔を見せた瞬間、狙い済ましたように、まるでワザとその隙を作る為に笑わせたかのように、目の前にいる、あどけない少女でも、手練手管なお姉さんでもない、「可憐」という言葉を擬人化した乙女これ葉ゆめ美は、僕の口腔内に彼女が唇をつけた銀のフォークを放り込んだのだ。これ葉の粘膜に触れたであろう金属と、洋菓子の甘ったるさが混ざり合って僕の内側に断りもなく入り込んだ刹那、僕の空洞だった頭の中は彼女という色香で満たされ、とめどもなくライジングが溢れ出した。全く、もう。ただの同じフォークを共有するというこの幸福絶頂な瞬間に至るまで、松野チョロ松は一体、どれだけ莫大な時間を自家発電で費やしてきたのだろう——というよく分かんない思考に囚われ、口からだらしなくヨダレを垂れ流した。