第11章 恋煩いライジング
一方のチョロ松はというと、念願だったゆめ美とのティータイムを満喫していた。
入った店はこの間行こうとしたファミレスではなく、商店街のケーキ屋である。
(はぁ…幸せすぎる)
ミルクレープをニコニコしながらつつくゆめ美を、チョロ松はあたたかく見守っていた。見守ってたというか、見惚れていた。
(店長、流石昔ブイブイ言わせてただけあるよ。僕から誘うことなく、こうして二人きりになれるキッカケを与えてくれるなんてさ…)
「おいしいね」
「そ、そうだね!」
頬に手を当て喜ぶゆめ美に、チョロ松のへの字口は終始緩みっぱなしだ。
ゆめ美はチョロ松と目が合うと、チョロ松がケーキに全く口をつけてないことに気がついた。
「チョロ松くん食べないの?」
「も、勿論食べるよ!」
(しまった。見惚れまくってた。でも仕方ないよチョロ松!見惚れざるを得ない笑顔だったじゃないか!ごはん三杯はいけちゃうスマイルだったもん。だがしかし、ここで僕もケーキを食べなければ、ゆめ美ちゃんの中に、なんか気味の悪い緑の三男という印象が植え付けられてしまう!)
と、慌ててフォークをサクリと落とす。
チョロ松が頼んだのは抹茶ミルフィーユ。口に入れれば、サクサク感と抹茶の風味が口いっぱいに広がる。
「うん、美味しい!カスタードと抹茶の生地が絶妙なバランス!」
「いいなぁ!私もそれ今度食べてみよっと」
煌めくゆめ美の瞳には抹茶ミルフィーユが映っている。
(もしかして、いける…!?)
チョロ松はヘタレな自分に言い聞かせた。
これはれっきとしたデート。いつぞやの間接チューは逃したが、今日は二人きり。ゆめ美と間接的に身体の一部が繋がるのは今しかない。行け、逝くんだ、松野家三男松野チョロ松!!
「…あ、味…」
「あじ?」
「味見……しても、いいよ」
チョロ松はへの字口をキュッと結び、ミルフィーユの乗ったケーキ皿を差し出した。
「いいの?ほんとに」
「うん」
「ありがとう!」
耳まで真っ赤なチョロ松を見て、まるで自分が凄まじいことをしているような錯覚に陥りながら、ゆめ美はしゃくりとミルフィーユをフォークに刺して口に運んだ。