第11章 恋煩いライジング
「くんくん……あっちに行ったみたいー!」
「さっすが十四松兄さん!探偵泣かせの嗅覚!!」
「行くぞお前ら!!休憩ダメ、絶対!!」
弟達も「休憩ダメ、絶対」を復唱すると、賑やかに店から飛び出していった。
「じゃーなおっさーん!!」
「はーい」
去り行く五人を窓ガラス越しに見送る。
再び店に静寂が訪れると、店主はまた口髭を撫でた。
「なんだ、ゆめ美ちゃんモテモテじゃないか」
ほんのちょっとからかっただけなのに、五人の焦りっぷりは凄まじいものだった。
「……面白くなってきたねぇ」
人知れずほくそ笑む店主。
その含みのある笑みは、ゆめ美を笑わせたいなんて言いつつ、六つ子の恋心をかき乱し楽しんでいる、ただの小悪党のそれだった。