第11章 恋煩いライジング
ここで空気を読むのがゴム男である。
「ゆめ美ちゃん、緑くんと休憩してきなよ」
いつものように自慢の口髭を撫でながら、キッチンから颯爽と登場してきた。
「休憩って…。別にここで出来るけど」
キョトンとした面持ちのゆめ美を見て、店主は冗談混じりに「フフン」と鼻で笑う。
「じゃあ訂正、ほうれん草切らしちゃったから、買い出しついでに緑くんとお茶でもしてきなさい。ゆめ美ちゃんだって、店の外に出て息抜きは必要だろう。ほら、着替えた着替えたー!」
「わ、ちょっと、伯父さん!?」
背中を押して、店主はゆめ美をバックルームへ押しやる。ポカンと口を開けて見ているチョロ松へ、店主は振り向きざまにウインクを飛ばした。
ゆめ美は鈍いのか遠慮しているのか。
何にせよ、店主はゆめ美にもっと笑って欲しかった。自分の店であくせく働かせるだけでなく、沢山楽しい思い出をその胸に刻んでやりたかった。
六つ子といる時のゆめ美は、店主の目にはとても生き生きして見えたのだ。
大切な妹の娘——妹というのはゆめ美の母だが、その妹の娘を預かっている以上、ゆめ美を僅かでも幸せへと導くのは自分の使命だとも思っていた。
・・・
「伯父さん、いってきます」
「いってらっしゃい。緑くん、よろしく頼んだよ」
「は、はいぃ!いっ、いっててきまます!」
私服に着替えたゆめ美と緑のスーツ姿のチョロ松を見送り、店主は店のドアを閉めた。