第11章 恋煩いライジング
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「うぅ…ん」
混濁した意識がはっきりしてくると、チョロ松は腹部に鈍い痛みを覚えた。
(い…てて。あれ…僕何してたんだっけ?アカツカ亭で——そうだ…トト子ちゃんにコーヒーぶっかけちゃって、ボディブローを貰って…)
ようやく自分が置かれている状況を思い出した所で目を開くと、アカツカ亭の天井に出迎えられるかと思いきや、心配そうに覗き込むゆめ美の顔がすぐ目の前にあった。
驚愕したチョロ松が「キャン」とよく分からない残念な声を発してしまうと、ゆめ美は目を丸くしながら後退る。
「チ、チョロ松くん、よかった目が覚めて」
チョロ松は上体を起こし、ソファーに座りなおしてぺこぺこ頭を下げた。
「ごめ、ごめんっ!!ホントごめん!!超至近距離にゆめ美ちゃんの顔があって驚いちゃって!大丈夫!?僕の唾とか飛んでない!?なんなら向かいのビルから飛び降りるから!!」
次から次へと謝罪の言葉が口から飛び出す。
「あのっ、落ち着いて?唾とか平気だから。私よりチョロ松くんの方が大丈夫?三十分くらい気絶してたけど…」
「えっそんなに?」
言われてチョロ松は、殴られた腹部を押さえてみた。鈍痛は残っているものの、動けない痛みではない。
「うん…平気そう。あれ?そういえばトト子ちゃんは…?」
「トト子なら帰っちゃったよ」
「そっか、じゃあ打ち合わせはまた今度かな」
ゆめ美が水を手渡すと、礼を言ってチョロ松は水を一口飲んだ。喉の奥がヒンヤリして、その心地よさに小さく息を吐く。
「チョロ松くん、調子悪そうだから今日はもう帰って家で休みなよ」
「そんなことないよ。寧ろ打ち合わせが中断して、暇というか時間が余ったというか…何も予定ない、と、いうか…」
チョロ松の声は段々とトーンダウンし、尻切れとんぼになった。グラスを両手で持ち、嘆息する。
本当はゆめ美ともう少しいたかったけれど、ゆめ美は夕方からまた仕事だし、自分から誘うなんてリスクが高すぎる。プライドの亜種であるチョロ松には土台無理な話だ。——あくまでも、今のチョロ松には、だが。