第10章 恋熱にほだされて
「……だから、早くいつもの笑顔を見せてくれ。元気になったら二人で出かけよう。いろんな所へ連れて行ってやる」
ゆめ美の熱のこもった手を、労わるように包み込みながら、カラ松は枕元を覗き込んだ。
今、目の前にある寝顔と、共に過ごすこの時間は、誰にも邪魔されない自分だけのもの。
ならば、目を覚ますまでこうしてそばにいよう。
せっかく甘えてきてくれたのだから、好きなだけ甘えさせてあげよう。
眠れる姫を見つめれば、甘くて苦しい、甘美な感情に包まれる。
髪を撫でると、シャンプーの淡い匂いが誘うように香った。
「なぁ、ゆめ美」
確認するように名を呼ぶが、返事はない。
「……キス…しても…いいか……?」
恋い慕う子と二人きりなこの空間、終始胸の鼓動は高鳴っていた。
その無防備な色香に酔ってしまえば、カラ松の衝動はもう抑えられない。
「ゆめ美、こ、これは…看病の一環だ。キミの病原菌をオレに移してくれ」
ありきたりかつイタイ言い訳をしながら、ゆっくりと顔を近づけ、
「好きだ…ゆめ美」
唇が重なろうとした——その時。
「ゆめ美ちゃーん!!ゆめ美ゆめ美ゆめ美ちゃぁーーーーんっ!!」
「やかましくない…それ?」
「ちょっと静かにしようか十四松兄さん」
(ブラザー!?なぜっ!!??)
けたたましいピンポン連打と共に、弟三人の声が聴こえてきた。