第10章 恋熱にほだされて
「あの、カラ松くん」
背中越しに聴こえるゆめ美の声。
ゆっくり、振り返る。
「どうした?喉でも乾いたか?」
「今日は、本当にありがとう」
「フッ、カラ松ガールの為ならば当然さ。気にするな」
「カラ松ガール?変なの」
そう言って笑うゆめ美を見やり、カラ松は照れ隠しにサングラスをかける。
そして再び背中を向けるも…
「ねぇ」
また呼び止められる。
「な、なんだ?」
(やめてぇぇえ!!このままでは射精しそうだぁぁぁあっ!!!!)
未熟なり、カラ松。
ここで真のイケメンならば、余裕げに「ったく、世話のかかるブス!」とか言いながら添い寝でもしてしまうだろうに。
しかし、今の彼は射精感に襲われそれどころではない。
が、弱々しい声が再度カラ松の名を呼んだ。
「あのね、カラ松くん…」
ゆめ美は、控えめに革ジャンの裾を引っ張った。
「もう少し…」
これ以上甘えたら迷惑だ。それはわかっている。けれど、熱で思考がぼんやりとしているせいか、ゆめ美は普段ならば口にしない言葉を紡いだ。
「…一緒に…いて」
「っ!?」
それは、臆病なゆめ美が初めて自分から見せた甘えだった。
予想だにしなかった展開に、カラ松の心臓がバクバクと脈打つ。
カラ松は拳を握り締めた。湧き上がる思いは止まらない。
不謹慎にも、風邪に苦しむゆめ美の前で、嬉しさと甘い期待が心を支配する。
(オレだって本当は帰りたくなかった。だが、オレはもう紳士でいられる自信がない。それこそ、風邪のキミに無理やり思いをぶつけてしまうかもしれない。それでもいいのか?そんなオレでも…)
「ゆめ美っ!お、オレは…!」
サングラスを外しながら振り返り、ゆめ美の枕元へ視線を注ぐ——と、
「……スリーピング…ビューティ……?」
力尽きたゆめ美は、寝息を立てて眠ってしまっていた。