第10章 恋熱にほだされて
薬局に寄り、風邪薬とマスク、冷えビタを買って二人は家に着いた。
女子の家に入るのなんてトト子の家以外初めてなカラ松は、緊張と興奮をクールな笑み(自称)で必死に押し隠す。
「ケホッ…狭いけれど…どうぞ」
恥ずかしそうにドアを開けたゆめ美だが、中は1Kという間取りを上手に使った部屋だった。
白を基調としたベッドの前に小さなテーブルとクッション、テレビがあり、壁に並んだ木目調のキャビネットやタンスは低めのものが置かれ、その上にぬいぐるみやらアクセサリーが飾られている。
そして、ありとあらゆる物から乙女臭がする。
そこら辺女にはよく分からないが、男はなぜか女子更衣室だとか女性専用車両など、野郎成分が含まれない空間から甘い何かを感じ取るらしい。
バスローブで外出すればよかったと後悔し立ち尽くすカラ松を、訝しげに覗き込むゆめ美。
「あの…入らないの?」
「フッ……邪魔するぜ…」
「はぁ…」
カラ松はタッティがバレないよう前かがみで歩く。
「じゃあ、私着替えるから…」
「分かった。なぁ、その間——」
ゆめ美がパジャマに着替えている間、カラ松はキッチンを借りておかゆを作ることにした。冷蔵庫にラップで包んだごはんを発見し、鍋に水とごはんを入れて火にかける。
(オレに出来るのはこれくらい…。あぁ、ウイルスと直接対決出来る白血球が羨ましい。オレは…なんて、なんて無力なんだ!)
常に高みを目指す次男は、己の非力さを責めながらもおかゆをコトコト煮るのだった。