第9章 絡まる恋糸
横にいるゆめ美が、おそ松の話をまるで聞かず、前を向き手を振っているからだ。
ゆめ美の視線の先を追うように見ると…
「なんだ。カラ松じゃん」
サングラスをかけ、いつもの革ジャンに顔つきクソタンクトップ、ドクロのバックル、本人曰く"パーフェクトファッション"に身を包んだ次男がスタスタとこちらに向かってきた。
ゆめ美の目の前で立ち止まると、サングラスを華麗に外し、いつもの調子で話し始める。
「フッ、まさかこんな所でゆめ美に会えるとはな。運命は悪戯好きだぜ…」
「俺もいるよカラ松ぅ〜」
おそ松が笑顔で自分を指差しアピールするも、カラ松は何故か無表情。
「おそ松、随分ゆめ美と仲がいいみたいだな」
やや不機嫌そうなカラ松。視線の先には結ばれた手。
「見りゃわかんだろ?俺ら付き合ってんの」
「ちょっ!何言ってるのおそ松くん!」
「あーら照れちゃってかーわいーい!!」
首を振るゆめ美の頭をおそ松がヨシヨシと撫でる。
「違う」と何度も言いながら戸惑うゆめ美を見て、カラ松は鋭い視線をおそ松へぶつけた。
「おそ松。ゆめ美を困らせるな。手を離すんだ」
「は?べつに困ってねーし。てかデート中なんだから邪魔すんなよ」
この一言にはクールを装っていたカラ松もダメージを隠せない。
「な…に!?真っ先にデートの約束をしたのはオレだぞ!誰もいないバックルームでオレは己の覚悟をぶつけたんだ!だから…」
「見つけたザンス!このごくつぶし!!」
「んー?」
話の途中でイヤミの声がビリビリと三人の鼓膜を振動させた。ゆめ美とおそ松が振り向けば、人混みの中を掻き分け、ものすごい形相のイヤミが全力でこちらに向かってきている。
「ヤベェ!ゆめ美ちゃん早く逃げよーぜ!」
「ま、待って!引っ張らないでっ!カラ松くん、今度連絡するからー…!」
「え?話はまだ終わって……」
「ごめんね」を残し、ゆめ美とおそ松は商店街の人混みの中に紛れて見えなくなった。