第9章 絡まる恋糸
「……ゆめ美」
一人ぽつんと残されたカラ松の心に空っ風が吹く。
(付き合ってると言っていたが…まさか…な)
あの様子ではそんなことは無いだろう。そう思いつつ、手を繋いでいたのが引っかかる。
(あいつはいつもそうだ。きっと躊躇いもせず手を握ったんだろう。やれやれ…人懐っこさとデリカシーのなさが紙一重な困ったブラザーだ)
呆然と立ち尽くし、二人が走り去った通りを眺めていると、何かがボンヤリと記憶の中から浮かび上がった。
——繋がった手。蝉の声。足音。
遠い過去の記憶。それがいつ、どこで、何だったのか、頭を押さえて捻り出そうとするも、記憶にモヤがかかりはっきりと思い出せない。
(オレは、なぜこんなことを急に思い出したんだ?ゆめ美とおそ松を見て記憶を呼び醒まされたということは…オレは…以前、もしかしたら……———そうだ、オレは!)
「やっと捕まえたザンス!おそ松!!」
「っ!!」
グイと乱暴に肩を掴まれる。
「イヤミ、よく見ろ。オレはカラ松だ」
「しらばっくれるなザンス!その目、犯罪者の目ザンス!誰がどう見ても食い逃げ犯のおそ松ザンス!」
「食い逃げ!?あいつ何やらかしてるんだ!?って待て!オレはおそ松じゃないって!カラ松だと言っている!」
「やかましいザンス!もうこの際何松でもいいザンス!同じ腹から産まれたなら兄弟の責任取れザンスー!!」
「オーマイゴーーッド!!??」
・・・
その後、カラ松は弁償としてイヤミに樋口さん一枚分タダ働きさせられた。
後日、ゆめ美がお金を返そうとしても、「キミを悪の手から守れたのならば安いものだ」とかなんとかほざいて受け取らなかったそうな。
お決まりの損な役回りは、懐が深いからこそ出来る芸当らしい。
10章につづく