第9章 絡まる恋糸
伝票を受け取ると、イヤミは薄気味悪い笑みを二人へ向けた。
「お二人さんもうお帰りザンスかー?では締めて三千二百四十円ザンス〜」
「は?二百四十円じゃねーの?」
「『は?』はこっちの台詞ザンス。そこの壁をよく見ろザンス」
出っ歯でクイっと示された壁を見て、二人は絶句した。
壁には小さな紙切れが貼られ、"当店は十五分毎に一人五百円の席料を頂きます"とミジンコのような字で書かれている。
「おいイヤミ!!聞いてねーぞあんなの!!」
「説明不足ですよ!!」
しれっとした顔で出っ歯を光らせるイヤミ。
「いちゃもんつけないで欲しいザンス。最初に言ったザンショ?自己責任カフェって」
「おまっ…!バカじゃねーの!?出っ歯で中年で意地汚ねぇとか良いとこ一つもねーな!!」
「シェーーッ!!お粗末なチミにだけは言われたくないザンス!!」
イヤミは脅すようにレジカウンターをバンッと叩いた。
「早く!!早く払えザンス!!今日の売り上げでミーが銭湯へ行けるかどうかが懸かってるザンス!!」
「そんなにお金ないんですか!?」
騙されたばかりだというのに、懲りずに騙されかけて財布を開いたゆめ美の手を、おそ松は黙って握り締めた。
(ゆめ美ちゃん、人が良いのも程々にな。…逃げるぞ)
(で、でも…)
(いいから俺に任せておけって)
おそ松は窓を指差し声を張り上げる。
「あーーっ!!あんなとこにパツキンで巨乳でミニスカートの一軍美女がーーっ!!」
「ど、どこザンス!?」
ベタな嘘にまんまと引っかかる哀れな中年出っ歯。
イヤミが目を逸らした隙に、おそ松はゆめ美の手を引き、勢いよくドアを開けて走り出した。
グイと手を引っ張られた反動でゆめ美の財布から小銭が落ちる。それは皮肉にも、キッチリ二百四十円だった。
「どこにも美女なんて…っておい!待つザンス!!」
「逃がしたそっちこそ自己責任だろ!じゃーなーー!!」
「シェーーッ!!??」
・・・