第9章 絡まる恋糸
「ったく、ここはハプニングバーじゃないザンスよ。乳繰り合うのは後にしてチョーよ。当店自慢の最高級のどっかの雪解け水でも飲んで待ってろザンス」
「へー水も高級とかあんのな。カルキ臭いから水道水かと思ったー」
「フン。じゃ、ミーは戻るザンス」
ツンツンした態度で戻って行く背中を見ながら、ゆめ美はおそ松に耳打ちした。
「なんかお店に入った途端、態度が変わった気がするんだけど…」
「そ。あいつはそーゆーヤツなの。ケチでセコくて悪どいオッさんなの。まぁなんかあったら守ってやるから」
背もたれに背中をギシと押し当てながら、おそ松は余裕ありげな笑みを浮かべる。
その一言がなぜか頼もしく感じたのは、実際、おそ松という男がイヤミを知り尽くしているからだろう。
・・・
数分後、メンドくさいだなんだブツブツ言いながらイヤミが運んできたドリンクに二人で口をつけた。
「ゆめ美ちゃん、味はどうなの?オーガズムなんでしょ?それ」
「………オーガニックね。日本語だと有機って意味で、化学肥料や農薬を使わないで生産されたっていうのが本来の意味らしいけど…」
ゆめ美は味わうように鼻腔に香りを取り込んでから、再度コーヒーを口にした。
(うーん、普通のインスタントコーヒーと変わらないような…)
「なんだろ?薄い…?」
「ふぅん?健康的ってヤツ?」
「そう…なのかな」
思っていた感動と出会えず落胆していると、シルバートレイを持ったイヤミがテーブルに食べ物を並べ出す。
「はいザンス。カップルセットのポップコーンとぜんざいザンス。これで自販機価格なんてとんだ大赤字ザンス。あぁ世知辛い!あぁタダ働き!」
「あ、ありがとうございます。でも、ポップコーンとぜんざいってすごい組み合わせですね」
「そうザンショ?和と洋を織り交ぜたザンス!以上でメニューはお揃いザンス!ウヒョヒョッ!ではごゆっくりぃ〜」
ニタニタと張り付いた笑みを残し、イヤミは戻って行った。