第9章 絡まる恋糸
「…え?」
「そんなに、俺が彼氏じゃ嫌?」
ぎゅ…と、抱きしめる腕の力が強まる。
「そ、そんな!付き合うとかそういうのは…!私…なんか…!」
「私なんかっつーか、俺なんかニートだし童貞だし。そーゆーのよくないよ?ゆめ美ちゃんなんかをサイコーって思うヤツがいたとして、そいつの気持ちはどーなんの?謙遜と卑下は紙一重よ?」
おそ松はゆめ美を落ち着かせるように、優しく髪を撫でた。
「『私なんか』じゃさ、ゆめ美ちゃんの気持ちが見えないじゃん?俺が気持ちを見せてんのに逃げちゃうの?俺はさ、ゆめ美ちゃんの本音を聞きたいワケ。もし俺が彼氏になったら嫌なのかどうか」
「例えばの話ね」と付け加え、おそ松はへへっと笑った。
場合によっては告白ともとれる発言だが、こういうことをサラリと笑顔で言ってしまうのがおそ松である。
ゆめ美は口をつぐみうなだれた。
明るい性格のおそ松なら、自分の弱さをさらけ出しても受け入れてくれるかもしれない。臆病な自分を笑い飛ばしてくれるかもしれない。
(おそ松くんといれば、私は——)
「私は…」
「うん」
「おそ松くんを…」
言いかけたところで、お尻に違和感を感じハッとする。
「…ねぇ、なんか硬いのが…」
「あぁこれ?チンコ」
途端、尋常じゃない力がゆめ美に宿り、おそ松の腕を振りほどき立ち上がった。おそ松のパーカーに負けないくらい顔がまっかっかだ。
「ふざけないで!」
「いやぁバレてしまってにーちゃん恥ずかしー!」
満面の笑みで頭を掻くおそ松。さほど恥ずかしそうに見えないのはご愛嬌。
そんな二人の元へイヤミがヌッと現れる。
「お二人さぁーん、お楽しみの所失礼するザンス」
そう言うと、面倒くさそうにおしぼりと水の入ったグラスを二つずつ置いた。
その隙を見計らい、ゆめ美は自ら向かいの席へ座る。
「おい邪魔すんなよイヤミ!」
と、言いつつも、
(まぁ、今はうやむやにしてんのが一番いいか。俺達も…ゆめ美ちゃんも)
ちょっと踏み込み過ぎたなと反省し、おそ松は複雑な気分を溶かすように水を飲んだ。