第9章 絡まる恋糸
店内には、予想通りゆめ美達以外に客はいなかった。
イヤミは窓際の席へ案内し、乱暴にメニューを広げてテーブルに置く。
「はいお二人さん、セットドリンクを早く決めてチョーよ」
「じゃあ俺コーラ」
「私はブレンドで」
「かしこまりましたザンス。先とか後とか面倒だからドリンクはミーのタイミングで持ってくザンス。あと、苦情が来ても一切受け付けないザンスよ。自己責任カフェザンス」
なんか急に感じ悪くなったなぁと思いつつ、ゆめ美がカップルセットの内容を確認すると、イヤミはまたしても企業秘密と隠し、そそくさとキッチンへ入って行った。
「あの、おそ松くん?」
「ん?」
「こういう場合、隣じゃなくて向かい合わせに座るものじゃないかな?」
「えぇ?だってカップルセット頼んだっつーことは俺ら今カップルじゃん?ほら、膝の上こいよ」
おそ松は、戸惑うゆめ美の腰をぐいと抱き寄せ顔を近づける。積極的なおそ松に対し、こういう展開に不慣れなゆめ美はみるみる頬が熱くなっていく。
「ちょっ、ダメ!」
「ねーお願ーーい!今だけ!今だけ彼氏にさせてよぉ!」
「わぁっ!?」
抵抗虚しく、ゲス松の膝の上に乗せられるゆめ美。
「ねぇ!恥ずかしいってば!」
「いーじゃん誰もいないんだからぁ。そんなに照れるって俺のこと好きなのー?」
「こんなの誰だって照れる!」
おそ松を説き伏せるのは無理だと判断したゆめ美は、手をつねり応戦する。
「いてっ!ふぅん?そうやって武力行使するワケ?」
「そっちだって無理やりしてきてるくせに!こんなのやだ!子供じゃないんだからっ!」
「いーよ。お兄ちゃんの前では遠慮なく子供になっちゃえって。その甘え下手な性格、全部包み込んでやるから」
「っ!?」
意表を突く甘い言葉に、ゆめ美はもがく腕の力を一瞬弱めてしまった。
それをおそ松が見逃す筈はない。
「隙あり!ぎゅーーッ」
「は、離してぇっ!」
後ろから羽交い締めにされると、ゆめ美の身体中がほてり、力が抜けていく。
「ねぇ…どうしてこんな、無理やり…」
ゆめ美が力なく声を絞り出すと、またふざけるかと思いきや、おそ松は消え入りそうな声で呟いた。
「……そんなに嫌?」