第9章 絡まる恋糸
「五百円なら私が奢るから入らない?コーヒー飲みたいし」
「優しいねぇゆめ美ちゃん。でもコイツに優しさなんて不要だから」
おそ松はニーッと歯を見せてゆめ美に笑いかけ、ポケットに手を突っ込むと交渉を始めた。
「あのさぁイヤミくん。自販機で百二十円出せば飲みモン買える時代にさぁ、ワザワザ店まで足を運ばせた挙句五百円出せって、客商売としてどうなの?それ。タダにしてくれたら、俺ら町中に宣伝してワンサカ客を呼び込んでやるのにさ。損して得とれってヤツ?」
(おそ松くん…それを言ったらうちのお店なんてどうなるのさ…)
と言いかけたものの、ゆめ美は必死に押し黙り二人を見守る。
「フ、フン…!そんなこと調子いいこと言って、タダ飯食って音沙汰ないのが関の山ザンショ?」
「あ、バレてたー?なんだ分かってんじゃーん」
このふざけ倒した態度には、今まで下手に出ていたイヤミも苛立ちを露わにした。
「シェーーッ!?チミには交渉術というのが欠片も無いザンス!!あとちょっとでミーのハートが動きかけてたのに!その名に違わぬお粗末なヤツザンス!!」
「えー?ダメなのー?もういーや。じゃあなー」
今度こそイヤミも諦めるかと思いきや…
「待つザンス…分かったザンス」
「あ?」
悔しそうに拳を固く握りしめている。
「そんなに言うならば、大負けに負けて自販機料金でどうザンス!!」
——結局、おそ松の天然なのか計算なのかよく分からない駆け引きに根負けしたイヤミは、カップルセットをタダにはしなかったものの二百四十円まで値下げするとサレンダーした。
こうして、二人はアカツカカフェでティータイムを過ごすこととなった。